
眼の内部にあるレンズ(水晶体)が濁った状態を白内障といいます。水晶体で光が散乱するため、かすんだり、物が二重に見えたり、まぶしく見えるなどの症状が出現し、進行すれば視力が低下し、眼鏡でも矯正できなくなります。

ほとんどの場合、加齢によるものです。外傷、アトピー性皮膚炎や糖尿病が原因となることがあります。
初期には点眼剤により進行を遅らせることができる場合がありますが、混濁した水晶体を透明に戻すことはできません。進行してきた場合、手術により混濁を取り除き、代わりとなる人工レンズを挿入する方法が一般的です。
通常、局所麻酔で行います。麻酔方法は点眼や注射などがありますが、適切な方法を選択することで、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。局所麻酔ですので、光や影が見えたり、音は聞こえますが、過度に緊張せずにリラックスしていただくのが一番のコツです。
角膜(黒目)のそばに作った小さな傷口(約3mm)より超音波を発振する吸引管を入れ水晶体の濁りを柔らかく乳化・吸引してから、眼内レンズを挿入します(水晶体超音波乳化吸引術)。
ただし混濁の程度が強い場合には、他の方法で水晶体を摘出することがあります。
白内障手術は、先人たちのたゆまぬ努力と技術の進歩により洗練された極めて安全な手術です。
視力の回復により生活の質が向上することで、高齢者がますます活躍する現代社会に寄与するものであります。手術時間が短いことや切開創が小さいことが喧伝されがちですが、それぞれの方の目の状態に応じた治療を選択することが重要です。

涙の分泌量が減ったり、涙の質が不安定になることによって、目の表面を潤す力が低下した状態をドライアイと呼びます。現在、日本では2,200万人ものドライアイの患者さんがいるといわれ、オフィスワーカーにおいては3人に1人がドライアイという報告もあり年々増加傾向にあります。

乾燥感だけでなく異物感・目の痛み・まぶしさ・目の疲れなど、慢性的な目の不快感を生じます。目を使い続けることによって実用視力の低下も起こります。
- (1)年齢
- 加齢により、涙の分泌量や質が低下します。
- (2)性別
- 女性のほうが男性よりドライアイになりやすい。
- (3)過度のVDT(visual display terminals)作業
- パソコン、スマートフォンなど、モニターを見つめる作業を長時間行うことで、ドライアイ症状が起こりやすくなります。
- (4)乾燥した環境
- 冬の乾燥した季節でドライアイが悪化する人は数多くみられます。また、エアコンの風が当たるところなどでも症状が悪化します。
- (5)コンタクトレンズ
- 特にソフトコンタクトレンズ装用者では、ドライアイに悩まされることが多いです。
- (6)喫煙
- タバコの煙にさらされると、涙の状態が悪くなります。
- (7)内服薬
- 血圧を下げる薬や向精神薬など「抗コリン作用」を持つ薬では、涙の分泌量が減少することがあります。
- (8)点眼薬
- 点眼薬の中には、涙の安定性を低下させ、また角膜に障害を与えやすくなる成分が含まれていることがあります。ドライアイでは、点眼薬の中に含まれる防腐剤などによる障害も起こりやすくなります。
- (9)マイボーム腺機能不全(MGD)
- まぶたの縁にマイボーム腺という油を出す分泌腺があります。加齢に伴ってマイボーム腺が詰まりやすくなり、涙の質が低下します。
- (10)結膜弛緩症
- 加齢に伴って、結膜部分(白目の部分)が弛み、眼表面で涙が留めにくくなります。また、弛んだ結膜が瞼と触れやすくなり、摩擦によって眼表面に傷がつきやすくなります。
- (11)全身の病気
- シェーグレン症候群という、涙腺・唾液腺に対する自己免疫疾患では、強いドライアイがしばしばみられます。
- (1)点眼薬
- 人工涙液、ヒアルロン酸、ムチンや水分産生を促す薬剤、消炎剤
- (2)環境改善
- 室内の加湿、VDT作業の見直し、コンタクトレンズ装用の調整、ドライアイ専用メガネの装用など
- (3)その他
- 涙点プラグ、涙点閉鎖術
ドライアイは失明などの重篤な結果をもたらすことはほとんどない病気ですが、慢性的な目の不快感や疲れをもたらし日常生活の質を著しく下げます。また、ドライアイの人は一定した視力で見ることが難しいため、quality of vision(QOV、見え方の質)を低下させることがあります。

カメラで例えるとフィルムに相当する網膜は物を見るのに重要な役割を果たしています。光や色を感じる神経細胞が敷き詰められた網膜には無数の血管が張り巡らされていますが、糖尿病により高血糖の状態が持続的になると、徐々に血管を傷め、視力に重篤な結果をもたらします。
糖尿病網膜症は、糖尿病になってから数年~10年以上経過して発症するといわれていますが、かなり進行するまで自覚症状がない場合もあり、まだ見えるから大丈夫という自己判断は危険です。糖尿病の人は目の症状がなくても定期的に眼科を受診し、眼底検査を受けるようにしましょう。

単純型
小さな眼底出血(点状・斑状出血)、血管瘤(血管壁のダメージによる毛細血管瘤)、硬性白斑(タンパク質や脂肪が血管から漏れだした網膜のシミ)
この時期の網膜症は血糖コントロールが良好ですと改善することがありますが、自覚症状が乏しいため診療の機会を逸しやすく、逆に進行していく場合があります。内科で糖尿病と診断された方は、眼科にも定期的に受診していただき、網膜症を発症させない、あるいは早期に発見することが重要です。
前増殖型
単純型よりさらに進行した状態で、網膜血管が広い範囲で閉塞するため、網膜が酸欠状態になります。このため出血斑が広がり、軟性白斑(酸欠による網膜の梗塞)などの眼底所見を認めます。また足りなくなった酸素を補うために「新生血管」を作り出す準備段階にあります。
この時期はかすみなどの自覚症状を伴うことがありますが、なかにはほとんど自覚症状のない方もあります。次の増殖型に進行しないためにも、この時期にレーザー治療を検討する必要があります。
増殖型
糖尿病網膜症が重症化したステージです。酸欠状態により促進された新生血管は極めて未熟な血管で、血管壁が破れると眼内に出血をおこし飛蚊症や急激な視力低下を自覚します。また新生血管が線維性の膜(増殖膜)となり網膜に引きつれをおこすと網膜剥離に至ったり、眼内を循環する房水の出口をつまらせると治療が難しい血管新生緑内障となり、失明の危機にさらされます。
眼底所見や血糖の状態にもよりますが、このステージではレーザー治療や手術が必要となることが多いです。
- (1)網膜光凝固術
- 網膜光凝固術にはレーザーが用いられ、外来通院で行います。網膜光凝固術は主に網膜の酸素不足を解消し、新生血管の発生を予防したり、すでに出現してしまった新生血管を減らしたりすることを目的として行います。光凝固は正常な網膜の一部を犠牲にしますが、全ての網膜が共倒れになるのを防ぐためにはやむを得ません。
この治療で誤解を生みやすいのは、今以上の網膜症の悪化を防ぐための治療であって、決して元の状態に戻すための治療ではないということです。まれに網膜全体のむくみが軽くなるといったような理由で視力が上がることもありますが、多くの場合、治療後の視力は不変かむしろ低下します。網膜症の進行具合によって、レーザーの照射数や照射範囲が異なります。網膜光凝固術は早い時期であればかなり有効で、将来の失明予防のために大切な治療です。 - (2)硝子体手術
- レーザー治療で網膜症の進行を予防できなかった場合や、すでに網膜症が進行して網膜剥離や硝子体出血が起こった場合に対して行われる治療です。眼球に3つの穴をあけて細い手術器具を挿入し、目の中の出血や増殖組織を取り除いたり、剥離した網膜を元に戻したりするものです。顕微鏡下での細かい操作を要し、眼科領域では高度なレベルの手術となります。

飛蚊症とは、視界の中に黒っぽい水玉や虫、糸くずのような影が飛んで見える症状の総称です。飛蚊症の90%以上は病気ではなく生理的なものですが、網膜剥離など重大な病気の初期症状として飛蚊症が出る場合があり注意が必要です。
眼の中は「硝子体」という透明なゼリー状の物質で満たされています。加齢による変化で硝子体に濁りやシワができることがあり、この部分に光が当たると網膜に影が映り込むため、飛蚊症として自覚されます。加齢変化であり病気ではありませんので、治療の対象となるものではありません(飛蚊症に効くお薬もありません)

一方で、網膜剥離の初期症状として飛蚊症が出る場合があります。特に
といった場合は、網膜剥離を起こしている可能性もあるので、早急に眼科を受診してください。

感染力が強く、昔から一般に「はやり目」と呼ばれているものです。アデノウイルス(8型、19型など)によって起こります。

結膜(白目)が充血しメヤニや涙がたくさん出て、眼の痛みを伴うことがあります。耳の前にあるリンパ節が腫れることもあります。症状の強い人では、結膜の表面に白い炎症性の膜(偽膜)ができることがあります。
この病気の潜伏期は約1週間から10日です。最初は片目だけに発症しても、数日中にもう片目に症状が出現することがあります。通常、発症してから約1週間に病状のピークがあり、その後徐々に改善していきます。
炎症が強い場合、角膜(黒目)の表面に小さな濁りが残り、曇ったような見え方が続くことがあります。消炎薬の目薬を使いますが、濁りが完全に消えるまでに数か月かかることもあります。
ウイルス性の結膜炎でも、のどの痛みや発熱などの風邪症状を伴うものもあります=咽頭結膜熱(プール熱)
アデノウイルスを退治する特効薬はありません。感染したウイルスに免疫ができるまで2~3週間の間は、別の細菌などの混合感染を予防するために抗菌薬の点眼を行い、炎症反応を抑えるためにステロイド薬の点眼を行います。
ウイルスによる結膜炎と診断されたら、周囲の人に感染を広めないように注意する必要があります。他人へ感染させる恐れのある期間は、流行性角結膜炎や咽頭結膜熱では約1~2週間と言われています。
主に手を介して伝染します。はやり目を家族や周囲の人にうつさないために、あるいはうつらないために、以下の点に注意しましょう。
学校保健安全法で指定された感染症ですので、医師が感染力はなくなったと判断するまで出席停止となります。社会人の方も、集団感染を防ぐためにできるだけ仕事を休み、不要不急の外出を避けることが望ましいです。

結膜下出血とは、白目の表面にある結膜の血管が破れて出血したもので、白目部分がべったりと赤く染まります。多少、目がごろごろしますが、痛みなどはありません。
原因はさまざまで、目をこすったり、くしゃみ・せき、深酒、水中メガネの絞め過ぎなどでも出血します。結膜下の出血では、眼球内部に血液が入ることはなく視力の低下の心配もありません。1~2週間ほどで自然に吸収されることが多く、とくに治療が必要なものでもありませんが、以下の場合には注意が必要です。

- (1)外傷
- 転倒して眼球を打撲したり、鋭利なもので眼をついたときに結膜下出血を起こしている場合があります。眼外傷は重大な視力障害に至ることがありますので、必ず専門医を受診してください。
- (2)感染症
- メヤニや痛み・かゆみを伴う場合、結膜炎の可能性があります。とくにウイルス性の結膜炎である急性出血性結膜炎では、結膜下出血をしばしば起こします。感染力の強い結膜炎ですので、眼科を受診していただき、周りの人にうつさないように留意することが大切です。
- (3)全身疾患
繰り返し結膜下出血が起こる人は、以下の疾患の疑いがあります。内科で異常がないかどうか調べてもらって下さい。
動脈硬化、高血圧、糖尿病、血液疾患(貧血、白血病、紫斑病など)、腎炎

「内科で高血圧を指摘されている」、「動脈硬化に注意するよう指導をうけている」このような方に急激な視力低下や視野異常が出たとなれば、この疾患をまず考えます。網膜の静脈が閉塞することが本態ですが、その閉塞部位によって網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症とに区別します。一般的には前者のほうが重症です。

- (1)急激な視力低下
- 血流障害による出血やむくみが網膜の中心部にかかると、視力が低下します。
- (2)視野障害
- 上半分あるいは下半分が見えにくいという症状がでますが、閉塞部位によって訴えは異なります。
- (3)変視症
- 物がゆがんで見えたり、曲がって見えるようになります。
- (4)無症状
- 周辺部の閉塞では、まったく症状がないことがあります。健診などで偶然発見されなければ気づかないことがあります。
硝子体出血
硝子体腔というスペースに血液が充満し、著明に視力が低下します。
血管新生緑内障
血管閉塞が著しい場合、網膜が酸欠状態に陥り、治療の難しい血管新生緑内障に至ることがあります。 網膜中心静脈閉塞症で合併することがあります。
- (1)網膜光凝固(レーザー治療)
- 硝子体出血や血管新生緑内障などの合併症を予防あるいは治療するために行います。
- (2)硝子体内注射
- 黄斑のむくみの治療のために眼内に薬剤を注射することがあります。ステロイド剤やむくみ・ 新生血管を抑制する効果のある薬剤などです。
- (3)手術(硝子体手術)
- 黄斑のむくみをとる目的で行う場合と硝子体出血などの合併症を治療する目的で行う場合があります。